魔法行商人ロマ 倉薗紀彦 小学館 全5巻
魔法使いの少女ロマとその家来ミィノが、人間の欲望(クレシャ)を求めて続けてきた旅は、ついに最終章を迎える。欲望を抱えた中高生に魔法具を渡して歩いた日々の先に待っているものとは。ロマの目的が今明かされる。
5冊目にして、最終巻となった本作。ロマがこれまで人間の欲望を集めてきた理由は、今は亡き妹の命を蘇らせるためであった。第21話「イヴィダの館」から早速、あと数人分の欲望を集めれば、ロマの願いが叶うという事実が判明する。終わりが確実に迫っていることを意識させる展開で、その後の4話は緊張感を伴うものだった。
今回収録された話の筋は、どちらかというと第1巻の頃を思い出すようなもの。際限のない欲望にまみれて自分を見失い、バッドエンドを迎える者、自らの強い意志で欲望と現実の間に活路を見出す者… 本作の原点に還ったような話が多かったように思う。
そして迎える最終話が、「カルマの輪」。ここで、すべての謎が明かされる。実は、ロマの妹、リマは自身の持つ特殊な力ゆえに、ある死者の復活を望む人々に利用され、魔法が暴走する下で命を落としたのだった。その妹を復活させるため、ロマは欲望を回収していた。つまり、人間の欲望を集めてきたロマ自身もまた、欲望に捕らわれながら長い旅を続けてきたのだった。そして、その旅の目標は、これまた人々の欲望のために犠牲となった肉親の復活である。欲望が欲望を生み続けるという連鎖を食い止めることはできるのか。本作が投げかける疑問は案外深い。
これまでは背景のように無表情を貫くことの多かったロマが、終盤で大きく表情を変える。自らの欲望に捕らわれながら、徐々に狂気じみていく表情、己の欲望を叶えるためにこれまでしてきたことを振り返り、涙する表情、そして、最後に見せる笑顔… 最終話におけるロマの心情と行動自体が、これまで本作で伝えられてきたことの集大成になっていて、よく練られた終わり方だと思った。欲望は、人間が生きるために必要な糧であり、それでいて、道を踏み外すきっかけにもなり得る。人間はきっと、欲望に溺れ、もがき、時に抗いながら、生を全うするのであろう。では、欲望とはどう付き合うべきなのか。答えは本作の随所に散りばめられている。
第1巻の発売からは1年半ほど。これまで読み続けてきて良かったなと言えるような秀作であったと思う。
★過去の記事★
『魔法行商人ロマ(1)』『魔法行商人ロマ(2)』『魔法行商人ロマ(3)』『魔法行商人ロマ(4)』PR