空が灰色だから 阿部共実 秋田書店 既刊3巻
表紙の「心がざわつく」というフレーズに惹かれて購入した本。オムニバスだから、3巻からの参入でも影響が少ないかと思い、突如最新の3巻を買ってみた。
思春期を過ごす少年少女の日常を描いたのが、本作。しかし、いわゆる「日常系」とはかけ離れた、本当の日常が描かれる。特に、思春期特有の感情の描写が鋭い。万能感と優越感に浸り、他人とは異なった個性を求めつつも、他人と違い過ぎることを極端に恐れ、ふとした瞬間に孤独を感じ… そのような感情に、作者はとことん迫る。そして、時に共感的な温かい視点で、時に皮肉とユーモアたっぷりの筆致で、葛藤に苦しむ少年少女の心を曝け出す。
本作に触れていると、大人になるにつれ、いつしか遠くのもののように霞んできてしまった気持ちが、鮮やかに蘇ってくる。思えば、年齢を重ねるにつれ、徐々に青春の痛みは忘れ去られ、思い出は美化されるものだ。しかし、本作がこれでもかと投げかけてくる青春の日々の苦しさ、辛さ、孤独を目の当たりにし、作中の少年少女の心の叫びが聞こえたとき、読者の心は多感な青春時代に引き戻される。そして、読後には、まさに「心がざわつく」経験が訪れる。
もちろん、青春時代真っ只中の読者であれば、共感せずにはいられない思いに駆られるかもしれないが、青春時代を忘れ去った人も十分に入り込める世界が広がっている。
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