クジラの子らは砂上に歌う 梅田阿比 秋田書店 既刊2巻
砂漠に浮かぶ船、「泥クジラ」で暮らす人々は、短命な超能力者と長寿の人間がともに協力し、平穏な社会を作り上げていた。しかし、突如現れたピエロの面を被った人々の襲撃を受け、「泥クジラ」は一瞬にして惨劇の場となってしまうのだった。この物語は、記録係の少年、チャクロによって語られる「泥クジラ」の民の物語。
1巻の終わりで、「泥クジラ」の悲劇が幕を開けた。2巻では、理不尽としか言いようのない襲撃に対して、為す術のない人々の様子が描かれる。そんな中、長命な人間達は、「泥クジラ」を砂の海に沈めようと決意する。彼らの言い方によると、「泥クジラ」の民は過去に犯した罪を背負っているがゆえ、外の世界からの攻撃を受けることはやむを得ないということらしい。外部からの攻撃で息絶えるのなら、このまま皆で死を迎えようとする長老会の受け身の姿勢に激怒し、反対した時期首長、スオウは地下の牢屋に閉じ込められてしまう。
長老会の不穏な動きに違和感を覚えるチャクロは、超能力使いの少年少女とともに、「泥クジラ」の秘密が隠されているという体内、すなわち地下へと進むことを決意する。一見平穏な生活の場であった「泥クジラ」は、とんでもない陰謀が隠された場所だったのかもしれない。その鍵を握るのが、人間の感情を抜き取る謎の生き物「ヌース」である。
化け物に感情を骨抜きにされて、戦闘マシンと化す人間達は、曖昧な大義のもと人々を攻撃することを許される。そして、過去の人々の罪を背負った人々は、ただ為すがままに自分達の生命が奪われていくのを甘受している。理不尽この上ない状況が、現代社会に訴えかけるものとは何か。考えてしまう。
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