リューシカ・リューシカ 安倍吉俊 スクウェア・エニックス 全10巻
空想少女リューシカの物語の最終巻。大人になると忘れられてしまう、在りし日感性を全編フルカラーの美しい絵で描いた物語もついに終わりを迎えた。
お掃除ロボットの気持ちを考えてみたり、「飛び方を忘れた」という言葉を吹き込まれたオウムのことを心から心配したりと、相変わらず空想少女の感性を存分に描いている。前回、大人である作者が子どもの感性で作品を描いているにもかかわらず、作者の引き出しが多いということを書いたが、まだまだ物語は続けられそうであった。しかし、連載終了に至るまでの作者の心情を語った、「糞先生」との対談形式のあとがきを読み、物語が終焉を迎えるのも仕方がないのかなと納得がいった。
あとがきにもあるように、この物語のスタートはリューシカ個人の空想の世界で、そこには誰も入る隙がなかった。しかし、物語が進むにつれて、その空想の世界が広がりを見せ、姉、兄、父、近所の人、出かけた先で電車に乗り合わせた人と、徐々にリューシカの世界に触れる人間が増えていく。そのようにして自らの世界が拡大していくことがリューシカの成長であったのだ。そして、成長とは切っても切れない関係にあるのが、大人としての視点であった。いずれは子供と大人の境界を破って「大人」側へと入っていく運命を負ったリューシカを描く以上、どこかに終わりがなければならない。周囲の人間と関わるために言葉を覚え、言葉による思考を獲得しつつあるリューシカの現状は、まさにリューシカが周囲と同様の「大人」側にまわりつつあることを示していて、物語の終わりに相応しかったのかもしれない。
◆過去の記事◆
『リューシカ・リューシカ(1)』『リューシカ・リューシカ(2)』『リューシカ・リューシカ(9)』PR