重版出来! 松田奈緒子 小学館 既刊7巻
以前から、「このマンガがすごい!」をはじめとした様々なメディアで取り上げられ、注目されていた作品で、存在は知っていたものの、読まずにいた。4月からドラマ化され、ドラマの内容に一気に引き込まれ、今更ながらも大人買いしてしまった。
大学時代は体育大学で柔道に打ち込み、オリンピック出場の候補者にまで選ばれていた黒沢心は、試合中に負ってしまった大けがをきっかけに、柔道の道は断念。漫画編集の道を志望する。20社不合格の末に興都館から内定をもらい、漫画雑誌「週刊バイブス」編集部に配属される。初めこそ、女性かつ異色の経歴ゆえに周囲からの不安もささやかれていたが、そんな不安はあっという間に払拭し、まっすぐさと仕事への熱意、驚異のコミュニケーション力を武器に、心は素晴らしい編集者へと成長していく。本作は、そんな心を中心に、編集部の面々や漫画家といった「週刊バイブス」を支える個性派集団、さらには営業や書店員、表紙デザイン、グラビア写真の加工、内容の校閲といった漫画を裏側で支える人々の仕事や人生まで描き出す骨太な仕事漫画だ。
各エピソードで取り上げられる1人1人の思想や仕事への取組みを丁寧に描いているのが何よりの魅力である。例えば、心と好対照をなす編集者の安井だ。売り上げ至上主義、残業しない主義を貫く安井の姿勢の背景には、雑誌休刊という大事件があったのだ。彼の姿勢は、売れる漫画を作り、雑誌を守り、かつ家庭を円満に保つためには必要なことであるいうことがよくわかる、屈指のエピソードである。他にも、会社の皆の努力で地味な良作「タンポポ鉄道」の一大ブームが起きる物語や、天才的な新人作家、中田伯と、ベテランアシスタント沼田渡の、まるでモーツァルトとサリエリを彷彿させる物語など、名場面は尽きることがない。最近は、主人公の心が黒子に徹して、裏方の職業をクローズアップする展開も多い。
このような作品の魅力はドラマでも存分に活かされていて、ドラマ版では原作のエピソードを独自に組み合わせたりオリジナルの場面を入れたりすることで、むしろ原作以上に盛り上がる部分もあり、脚本の構成が素晴らしいなと思う。キャストも、うまく探してきたなと思えるハマリ役が多い。巷では視聴率が不調と言われているのが残念。