かくしごと 久米田康治 講談社 既刊1巻
漫画家の後藤可久士(ごとう・かくし、姓名をひっくり返すと「かくし・ごとー」)が「描く仕事」を「隠し事」にしていることを表す、絶妙なタイトルの本作は、久米田康治が描く、漫画家を主人公にした漫画である(実は、「隠し子と」一緒に暮らすという意味合いもあるのかと最初は思ったが、今のところその可能性はなさそうだ)。
漫画家の後藤可久士は、ちょっと下品な漫画を描いているのが一人娘の姫にバレてしまい、溺愛する娘の人生に何かあったら大変だと心配し、自らの仕事を隠そうとする。その隠し方は大層な徹底ぶりで、朝自宅を出るときはスーツ姿、小学校に通う娘とは自宅の門の前で正反対の方向に別れて、途中にある行きつけの洋服屋でラフな格好に着替え、仕事場に行くという様である。
職業に貴賎なしと言われようと、現実的には漫画に関わる人々に対する世間の目は決して温かなものではない。そんな悲しい現実が、悲哀なエピソードをギャグで包む形で描き出される。しかし、自虐に満ちた物語でありながらも、男手一つで大切な娘を育てる父親の姿と、他人を思い遣る優しい心を持った姫のまっすぐな性格があるからこそ、根底に温かさがあるのだ。
第1巻の巻頭と巻末には、18歳になった姫がついに父親の仕事を知ることになる場面がカラーで描かれている。ある意味、この先にある物語の結末が第1巻で描かれ、読者は父親の仕事をついに知ることとなった姫の姿を見るのである。娘からは立派な父親だと思われていることが伝わる、感動が込み上げてくるシーンだ。お父さん、ひたむきな愛情はちょっとズレた方に向かっているかもしれないですが、ちゃんと娘さんに届いていますよ。