VIVO! 瀬川藤子 マッグガーデン 既刊1巻
知り合いの紹介で突如高校3年生の担任として赴任することとなった30代の男、仲村渠豊寛、通称ナカムラ。自分主義の彼は、教育の場でもそれを貫こうとする。あまりの超放任主義の教育を実践する担任に対して、クラスの生徒達は動揺を隠せない。しかし、そんなナカムラ流の教育に、振り回されつつも徐々に引き込まれていく生徒がいた。自分本位の先生と個性的な生徒達の交流記。
自分主義のトンデモ教師の価値をしかと認識させられるのが、第1話のエピソードである。そう、この漫画は第1話からしてナカムラ節全開なのである。最初から勢いがあるため、その先の話にもぐいぐいと引っ張られてしまう。「熱血教師=善」という図式を当然のごとく標榜する担任に対し、ナカムラは、生徒がウンザリしているという現状をあっさりと、そして明確に伝える。たじろぐ担任に対して、「自己陶酔」という捨て台詞で追い討ちをかけるナカムラ。珠玉の第1話だ。
『ドラゴン桜』の桜木健二にしろ、『勤しめ!仁岡先生』の仁岡隆志にしろ、正統派の教師からしたらとんでもないような教師が、不思議と魅力的に映ることがある。本作の主人公のナカムラ先生も、その1人だ。自分が面倒くさいと思うことは避けるということを至上命題としつつ教育に当たる彼の姿は、一見どうしようもない人物に見えつつも、結果的に生徒の心を掴むことがある。おそらく、彼らに共通するのは、裏表のなさであろう。例えば、仁岡の子供嫌いは一貫しているし(本人は「全てのガキを等しく嫌ってます」発言したことがある)、本作のナカムラも、「俺に迷惑さえかけなければいい」という原理に従って行動する。それが結果的に生徒思いの行動になることもあれば、生徒が呆れてしまうような場合もあるのだ。しかし、何よりも「楽」であるのが、多くの生徒に共通する感想である。
加えて、本作のナカムラは仕事が完璧だ。例えば、不登校歴を持つ生徒の住吉結子については、校長に特別の許可を必要とする生徒という説明をしておくことで、彼女が授業に出なくても咎められないよう根回しをしておく。それでいて、住吉に対しては「自分で日数計算して上手いことやれよ」とだけ言い放つ。自分本位の行動とはいえ、見事な配慮である。他にも、バスケ部の顧問を任されないようにするために、生徒を半ば強引に自分の同好会に入部させる方法など、要領を得た仕事ぶりには感動すらしてしまう。
型に嵌らないはっちゃけ教師が支持されるということは、それだけ現代の教育が暗礁に乗り上げ、突破口を失った状態にあるのだろうか。せめてフィクションの世界だけでも、既存の欺瞞に満ちた教育の世界にメスを入れるトンデモ教師の行動に期待する。
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