漫画 うんちく書店 室井まさね メディアファクトリー新書
神出鬼没の男、雲竹雄三(読みは「うんちく ゆうぞう」)。彼はその名の通り、本に関する薀蓄を語り、去っていく。内容は、本のスリップやバーコードの謎から、書店の棚作り、印刷技術の歴史や各文学賞、本にまつわるギネス記録に至るまで、様々である。身近な謎が解けて「なるほど」と思うこともあれば、マニアックな知識に唸らされることもある、充実の内容だ。
エンターテインメント性を重視した新書を目指すのが、メディアファクトリー新書の特徴であるだけに、新書の形態をした漫画まで発行されている。漫画ゆえの読みやすさに加えて、作中で何回か登場してくる若い男女のカップルや、妻の雲竹優子とのやり取りなど、物語性もあって面白い。参考文献の数からして、この漫画を仕上げるに当たって、作者は相当数の文献を紐解いたと思われる。数多くの薀蓄は、思わず他人に話したくなるものばかりだ。
棚作りに工夫を凝らそうと燃えたり、芥川賞や直木賞といった文学賞に振り回されたりと、あまり知られることのない書店員の苦労まで描かれている。これらの事情を知るだけで、書店を訪れたときの視点が変わる。思わず、本の置き方、並べ方に関する裏事情を考えてしまいそうだ。また、万引きについて、刑事罰の側面や書店の収益の面から具体的なデータを提示し、誠実に語った第9話は心に残る。
「これを扱ったら日本一」と言えそうな書店名を挙げていく第8話など、実際に書店に出掛けたくなる情報も豊富だ。本書は、いわゆる「リアル書店」が存続の危機に晒されている時代に、書店の意味を問いかける役割も果たしている。読後には、書を求め町に出ようという気持ちになった。
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