orange 高野苺 双葉社 既刊2巻
20代というと、人生の中での大きな決断を迫られることも多く、今後の人生を決める岐路に立たされる時期とも言える。そんな時期だからこそ、ふと過去の自分の決断の数々を振り返った時に、後悔の念に駆られることもある。それがもし、かけがえのない友人を失うという、とてつもない出来事に繋がっていたら尚更であろう。本作は、後悔に満ちた20代の自分からのメッセージを、自分の未来など知る由もない10代の高校生が受け取り、運命に抗う物語である。
高宮菜穂は、自分の気持ちを抑えがちな高校2年生。同級生の須和弘人らと平凡ながら楽しい高校生活を送っていた。しかし、菜穂の平凡な日常は、未来の自分から届いた手紙によって崩れ去る。手紙に書かれているのは、26歳になった未来の自分が必死な思いで綴った後悔の念と、転校生の成瀬翔を守るようにという願いであった。初めは本気にしない菜穂だったが、手紙に日記のように書かれた出来事が次々と的中していくにつれて、菜穂は手紙の内容が真実であることを実感していく。やがて翔に心惹かれていく菜穂は、未来の自分が過去の自分に手紙を宛ててきた理由を探ろうとして手紙を読み進めることで、翔が後に自ら命を絶つという未来を知る。
長野県松本市を舞台にした青春物語は、どこまでも切なさに満ちている。未来を変えたい、翔を救いたいと思う菜穂の気持ちは、時に翔に届き、時に胸にそっと秘めるしかない。未来の自分からのメッセージに戸惑いつつ、それでも運命に立ち向かっていく菜穂の姿には勇気付けられる。また、高校生としての瑞々しいまでの感性によって紡がれる恋愛要素は心温まるもので、大人になった読者までもタイムスリップしたような気持ちにさせてくれる。
PR