クジラの子らは砂上に歌う 梅田阿比 秋田書店 既刊3巻
砂漠に浮かぶ船「泥クジラ」の平穏な社会は、突如現れたピエロの面を被った人々「スキロス」の襲撃によって危機を迎える。超能力の使えない長命な人間達で構成される長老会は、一旦は「泥クジラ」を砂の海に沈めようと決意するが、首長スオウや超能力使いの人間達はその意見に反対し、スキロスの襲撃に備えて戦争の態勢を整えようとする。これまで戦争の経験などない泥クジラの人々であったが、彼らなりに周到な作戦を練り、スキロスとの戦いを始めるのだった。
徐々に注目を集めつつある本作。泥クジラの民は、選択を迫られる。罪人とされてきた者として、静かに船を沈めて死を迎えるのか、外からの襲撃に対して最大限の抵抗を示すのか。そして、民の選択したのは後者であった。潜在的には高い超能力を持つ泥クジラの民は、訓練によって戦闘向きに力を使う術を身につけていく。また、主人公のチャクロは、特に能力の高い超能力使いの少年少女とともに、敵艦の奥にある船の原動力「ヌース」の破壊を目指して、敵陣進撃の作戦を練る。自分達の仲間をこれ以上失わないという大義において、平穏な暮らしをしてきた泥クジラの人々までも戦争へと向かっていく。理不尽な攻撃に対する防衛ではあるが、悲劇に次ぐ悲劇という無限ループに陥る危険性も秘めていて、戦争の悲劇が生まれる過程はこのようなものなのかもしれないと考えてしまった。
子ども達を守るために自ら身を投げ打って死を迎えることとなった長老は、「ずっと未来まで生きてくれ」と願う。戦争を選んだ泥クジラの人々に再び平安が訪れることはあるのだろうか。
■過去の記事■
『クジラの子らは砂上に歌う(1)』『クジラの子らは砂上に歌う(2)』PR