アンの世界地図~It's a small world~ 吟鳥子 秋田書店 既刊3巻
家出したロリータ服の少女、アンが徳島で徐々に自分の居場所を見つけ、他人の愛情に触れていく物語の第3巻。アンはお茶碗を買おうと訪れた店先で、ドイツ人の幽霊に出会う。幽霊は名をマイズナーといい、第一次世界大戦中の徳島、坂東俘虜収容所に連れて来られた。俘虜と当時の徳島の人々との心温まる交流と悲劇的な結末が描かれる。
第2巻から急展開を迎えた本作。第3巻で、ドイツ人俘虜の物語は一応の終結を迎える。突如訪れたアンとマイズナーとの出会いだったが、この不思議な経験は両者にとって必然だったように思える。育児放棄ともいえる状況で育ち、自らの親の振る舞いに対して幼い頃から疑問を抱かずにはいられなかったアンに対して、両親に裏切られたという思いを抱いて生きていかざるを得なかった子ども、あおいを本当の親のように育てたマイズナー。2人の心はまるでパズルのピースのようにぴたりとはまり、互いの心を癒す。物語中に出てくるその他のドイツ人俘虜が背負った運命を見ても、人が人として認められ、生きていくことの難しさを感じざるを得ない。
突如始まった過去の物語はやがて現代の事件へと収斂する。過去の物語で登場したあおいは、第一次世界大戦の時代にドイツ人俘虜と日本人女性の間に産まれた、アキの祖母に当たる人物だったのだ。時は現代、ドイツ兵の慰霊を祭る場所で、アキとあおいが出会う。不穏な空気を醸して、物語は続く。
■過去の記事■
『アンの世界地図~It's a small world~(1)』『アンの世界地図~It's a small world~(2)』PR