詠う! 平安京 真柴真 スクウェア・エニックス 全6巻
平成の世から平安時代にタイムスリップしてしまった少年、藤原定家。表向きは言祝ぎの天女として和歌の収集を続けていたところを、怨霊と化した菅原道真が定家の力を狙い、定家とその周囲にいる人々に危険が降りかかる。
物語はいよいよ最終巻。最もクローズアップされるのは、菅原道真である。藤原氏との関わりの中で無念を抱いて怨霊と化すまでの経緯が語られ、定家は共感の念を強くする。そこに付け込んだ道真は、定家の言祝ぎの天女としての力を利用し、都を破壊しようと試みる。定家が男だと知ってから、一時は定家への信頼を失くしていた在原業平だったが、小野小町に諭されて、定家の命を救おうと決意する。2人の協力あって無事に道真を成仏させた定家に待っていたのは、平安京との突然の別れだった。
別れはあまりにも突然だった。和歌の収集が進み、もうそろそろかという頃合いは見えていたものの、本人の意志に関係なく現代へと戻された定家。修学旅行に復帰した定家が北野天満宮で菅原道真から聞いたメッセージこそが、本作のテーマにも結び付くものであろう。時代は違えど、自然の美しさに感動する気持ちや、恋に悩む気持ち、人との別れを悲しむ気持ちは同じ。だからこそ和歌はこれまで生き残り、我々に当時の人々が生きた証を届けてくれるのだろう。和歌に対する真摯な思いを伝えようとしてきた本書だからこその、心に染み入る極上のメッセージであったと思う。過去の記事でも語ってきたことだが、和歌の解釈から裏に込められた思いに至るまでの丁寧な解説を、エンターテインメント性たっぷりの描き方で表現した作品で、読者を和歌の世界に案内する入門書としてこれほど優れたものはないと思う。
■過去の記事■
『詠う! 平安京(1)』『詠う! 平安京(2)(3)』『詠う! 平安京(4)(5)』PR