E'S 結賀さとる スクウェア・エニックス 全16巻
第3次世界大戦を経た世界は、国家の力が弱体化し、代わりに企業が人々の生活に大きな影響を及ぼすようになった。このような時代の中、新興企業「アシュラム」は、突然変異によって生まれ、人々の恐怖の対象となっている超能力者を集め、巨大企業として支配を広げようとしていた。「アシュラム」の特殊能力者部隊に所属する戒=玖堂は、スラム街を形成する土地、ガルドでの任務中に仲間と戦闘になり、倒れているところを勇基=篤川と明日香=篤川の2人に救われる。3人で生活し、便利屋である勇基のもとに舞い込む仕事を通して、ガルド内で起こる事件に関わっていくうちに、戒は自らが所属していた「アシュラム」のやってきたことに疑問を覚えるようになっていく。ガルド地区で支持を得て、次期教皇を狙う枢機卿ギベリーニ、旧教皇マルティヌス14世の下に集まったゲリラ、巨大企業アシュラムの指揮官、曳士=鷺宮、その配下で働く人々、それぞれの思惑が複雑に絡み合う中、物語は進む。戒は、「アシュラム」に妹の光流を人質として取られていた。戒と光流をめぐる謎が徐々に解明され、戒が過去の記憶を取り戻したとき、世界は破滅へのカウントダウンを始める。足掛け12年の長期連載は、現在のところ「月刊Gファンタジー」の最長記録。連載当初の中高生が30歳に近づいていることになる。エニックス時代から続く漫画が完結を迎えた。
物語は、初めの部分が掴みづらい。時と場所の変化が多く、それぞれの人物がいったい何を求めているのかが、はっきりとしてこない。しかし、途中からある程度物語の設定がわかるようになってくると、どんどん引き込まれていく。権力闘争の裏に隠された、能力者の苦悩、生きる意味への問い、人間の身勝手さについて考えさせられる。人間が、能力者を恐れながらも、自らの美しさと寿命を維持するために能力者の身体の一部を移植したり、傭兵として能力者を使用しているという現実など、随所で語られる能力者差別の描写は、異質の者が生きる意味について問いかけるものである。
登場人物たちも、それぞれが非常に魅力的である。主人公格の戒に、独自の哲学を持ちながらも人情にも厚い勇基、最後までぶれない魅力的なヒロインだった明日香、中盤からこれまた魅力的なヒロインとなるマリア、最後まで孤高を貫くこととなった「アシュラム」の最高指揮官である曳士、悲運を辿ることとなったベルヴェディア姉弟、生きる意味を見出そうともがいたマキシム。皆の思いが様々な場面で描かれ、物語を大きく盛り上げていく。
物語の終盤では、主人公である戒の現実世界での戦いと地球の行く末がシンクロする展開の中、ガルドの持つ意味、戒の妹の光流の存在の謎が明かされる。光流が関わった人物はすべて狩ることで自らの責任を果たそうとする戒は、次々と「アシュラム」の人間を倒していく。第1巻からいた人物も多く、各々の散り際は涙なしには読めない。
絵が非常にうまいのが本作の魅力。綺麗な絵の中に時折入り混じった崩した絵も、けっして手抜きに見えず、全体とバランスを取りつつ効果的にコミカルなシーンの演出に一役買っている。戦闘シーンの迫力もありながら、繊細な心理描写も忘れない。もう1つの特徴が、豊富な語彙。登場人物の台詞やト書きに出てくる言葉から、作者の文才が覗える。
文学的にも、旧約聖書、精神分析、エディプス・コンプレックスなどなど、分析のネタは豊富にある。難解なストーリーと並んで、読み応えがある。とは言いつつも、私もまだまだ理解が十分でないところが多いのが現状である。
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