幻影少年 万乗大智 小学館 全6巻
人の心にダイブする能力を持った少年、秋月サトワと、その下宿先で喫茶店を営む少女、小川水音が営む探偵社には、他では解決できない悩みや秘密を抱えた依頼人が訪れる。サトワと依頼人との心の交流を描いた作品の6冊目にして最後の単行本。
5巻で前編が収録された「無償の愛」の後編と、サトワの過去を描いた「絆」の上・中・完結編が収録された最終巻。作者があとがきの部分で、描ききれなかったことがあるという心残りを述べているように、やや消化不良のまま終わってしまった感は否めない。
本作の課題は、対象の読者層をうまく絞り込めなかったことにあるのかもしれない。物語そのものとしては、人の心を扱った教訓的な要素もある内容で、少年漫画としては悪くない。しかし、物語の中には裏社会の人間も多く出てくるため、少年漫画としては若干ハードな部分があることも確かだ。私個人の意見としては、そこが本作の魅力の一部となっていると考えているのだが、一方でこのハードな部分が対象読者を絞ってしまった可能性はある。
個人の心の深奥には、その人の生き様や価値観、善意悪意のすべてが詰まっている。また、そこでは善と悪といった単純な二分法は成立しない。卑劣な犯罪者の心の中を微かに照らす善意の炎、誠実な人間の中に潜む他人を憎む心など、人間は二面性を持っている。サトワは、心の闇に切り込んでいくことで、この二面性とも真摯に向き合う。悪い行い、卑劣な行為に対しては毅然とした態度で立ち向かう一方で、人間の温かい部分に対しては優しさをもって関わる。悪い行為を憎みこそすれ、善人と悪人という二項対立を前提とはしないサトワの姿勢は、現代社会に痛烈なメッセージを投げかけているのではないかと思ってしまう。
またいつか、どこかで、ミッドワールドの世界に触れることができる日を待つ。
◆過去の記事◆
『幻影少年(1)』『幻影少年(2)(3)』『幻影少年(4)』『幻影少年(5)』PR