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幻影少年 万乗大智 小学館 既刊5巻



人の心にダイブする能力を持った少年、秋月サトワ、その下宿先で喫茶店を営む少女、小川水音と、探偵社を訪れる依頼人との心の交流を描いた物語。5冊目の単行本。

書き出しが印象的な4話が収録されている。サトワと水音のもとに引き取られた犬、マックスの語りで始まる「強い男」、トップレベルの機密事項の匂いを醸し出す「最後の願い」、不思議な事件に怯える大学生の姿が少しコミカルな印象を与える「十七階段」、衝撃的な事件を予感させる「無償の愛〔前編〕」。特に、前半の2話は、運命の残酷さと生きることの素晴らしさの両方を描いた、重みを持った作品。

本作を読むと常に感じるのが、人間の心の美しい部分と醜い部分の対照だ。皮肉なことに、美しいものがあるからこそ、醜悪なものが際立ち、目を背けたくなるようなものがあるからこそ、綺麗なものに感動できる。サトワがダイブする心の中は、輝けんばかりのきらめきに満ちていることもあれば、グロテスクな世界のこともある。美しい心は、醜い心があってこそ成立し得るのか。そのような問いを投げかけたくなる。

作者のあとがきによると、本作は次の6巻で終了の予定だそう。非常に地味な作品ではあるが、最後まで応援していきたい。


◇過去の記事◇
『幻影少年(1)』
『幻影少年(2)(3)』
『幻影少年(4)』
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