1月のプリュヴィオーズ 星屑七号 集英社 全2巻
月の石は、手に入れた者の「正義」を大きな力へと変換する力を与える。クラスメイトをいじめから守ろうとし、逆にクラスから孤立せざるを得なくなった守田冴子は、その石を手にしたという少女、プリュヴィオーズに出会う。そして、2人の周囲にはやがて月の石を手にした少年少女が集い、それぞれが信じる「正義」を貫こうと、戦いが始まる。
東西連戦の終結、イラク戦争といった出来事は、戦争を単純な「正義vs悪」という構図で捉えることに対する疑問を呈してきたとは、よく言われることである。本作が訴えかけるテーマも、まさに「正義」とは何か、「正義」の反対に当たるのは何かといった、現代の社会を語る上で外せないテーマである。
本作では、様々な「正義」がぶつかり合う。いじめを行う集団を粛清しようとする正義、嘘をつく心の汚い大人に罰を与える正義、「正義のヒーロー」として戦うことに価値を見出す正義、力でもって相手を押さえつけることに反対する正義… 作中の登場人物である少年少女が主張するこれらの正義は、一見すると正当性を持った正義にも思えるが、一方で矛盾も抱えている。いじめは許せない卑劣な行為だが、それに関わった人間に復讐することは正しいのか。「心の汚い大人」の基準は誰がどう設定すべきなのか。「正義のヒーロー」の資格とは何なのか。相手が暴力で戦いを挑んできたとき、果たして非暴力で抵抗し、仲間を傷つけるのは正しいのか。「正義」のあり方は、答えの見つからない問いなのだ。自分の信じる正義に向かって突き進んだ結果、少年少女に訪れた結末は悲惨だ。
可愛らしい作画で描かれる見た目とは正反対の、非常に硬派なテーマに挑んだ本作。正義という価値観が、いかに相対的で時に無力であるか、改めて考えさせられる。そして、絶望したくなるような状況に置かれても、なお生きること、すなわち人間の「正義」と向き合うことを選択した冴子とプリュヴィオーズの勇気を讃えたい。
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