カリュクス 岬下部せすな 双葉社 既刊1巻
時は2050年。世界は砂漠化が進み、かつてのような平和で豊かな暮らしは影を潜めていた。日本は4つの独立小国家に分断され、食料や土地を求めた戦争と隣り合わせの日常が訪れていた。その1つであるサイタマ国の防衛軍に所属する沢村草史は、周囲に流されて生きることに甘んじていた。沢村は、ある日防衛軍の食堂で、世間で話題になっている「花の少女」という病に侵された少女、ナデコと出会う。沢村はナデコに惚れられるのだが、「花の少女」たちはとても過酷な運命を背負っていたのだった。
岬下部せすな待望の新作は、現在よりも衰退した未来の日本を描いた人間ドラマ。砂漠化が進む中で突然変異として生まれた植物種は、人間の少女の心臓に巣食うことで生きるという道を開拓した。花に養分を奪われ、短命な生涯が待っている彼女達は、他の人々から隔離されていた。さらに悲惨なことに、少女達は恋をすると不思議な力に満たされるため、戦闘要員にさせられるのであった。
短い命を、人を愛し愛されることで全うさせたいと願う彼女達は、パートナーの男性を見つけ、共に戦う道を選ぶのだった。ナデコもまた例外ではなく、沢村に出会ったときから恋に生きようと決意するのだった。しかし、沢村はナデコの悲惨な運命に自分が関わることを避けようとする。傷つくことを避け、周囲に流されながら生きてきた青年と、短い命を精一杯に生きようとする少女が出会うことによって化学変化が生じるところが、1巻最大の山場である。
舞台は、荒廃し絶望感漂う世界だが、生きることの素晴らしさ、1人1人の人間のかけがえのなさを訴えかけてくれる温かさに満ちたファンタジーで、早速1巻から惹かれた。
PR