PandoraHearts 望月淳 スクウェア・エニックス 既刊10巻
15歳の成人の儀式の最中、オズ=ベザリウスはバスカヴィルの民と呼ばれる者らに襲われ、アヴィスという監獄に落とされる。オズは、そこでアリスという少女と出会う。地獄から抜け出すために、オズはアリスと契約を交わし、アリスに力を貸すことを誓う。オズは無事地上に戻ったように思ったが、実は元の世界では10年の時が流れていた。2人は、バスカヴィルの民の謎を追うパンドラという組織の一員、ブレイクらに捕らわれてしまう。ブレイクは、オズがバスカヴィルの謎を解く鍵であると考え、共に行動することを提案する。また、アリスは地上に散らばった自分の記憶を取り戻すために、オズ、ブレイクに協力することを決意する。そうして、オズ達の冒険が始まる。しかし、オズにはタイムリミットがあった。オズの胸には、アリスとの契約時にできた刻印があり、その針が時計の針のように一周したとき、契約者のオズは再びアヴィスに落とされるという。すべての謎が解明されるのが先か、オズが地獄へと落とされるのが先か。さらに、すべてが明るみに出たときに待っているのは、希望か絶望か…
「パンドラ」「不思議の国のアリス」の言葉に惹かれ、読み始めた作品。そして、ちょうど興味を持ってからしばらくして
アニメ化されたという、自分にとって思い出深くなりそうな作品。
謎に告ぐ謎の連鎖で、次々と伏線が張られていくのが本作の特徴で、しばらく読んでいかないとわからない。8巻、9巻辺りから徐々に謎の解明という意味での物語は進み出したように思う。今のところ、どんな風に転がっていくのか想像がつかない状態。
確かに、これまでの展開で、いくつか山場はあり、その中でメッセージが発せられることはあった。しかし、全体としてはストーリーを追っていくという楽しみ方に向いている作品ではないかと思う。登場人物達は、皆過去に何かしらの傷を負い、心の奥底に封印してしまっている記憶を持つ。オズとアリスがその記憶を求めようと奔走することで、他の人物の抑圧されていた記憶も徐々に甦っていく。それぞれの過去の経験が判明していくにつれ、悪者を簡単に悪者と言い切ってしまうことができなくなる。それぞれの人物が自分の記憶とどのように向き合っていくのかが、今後の展開の鍵を握っていそうだ。また、オズと父親との確執も、本作の重要テーマ。抑圧された記憶と合わせると、精神分析的な要素が好きな人は楽しめるかもしれない。
本作の特徴は、オズが様々な人と出会うことによって、自分の考えを深め成長していくという少年漫画的な要素と、美形の男が次々と現れてくるという女性向きの要素が入り混じっているところにある。これは、ガンガン系ならではの魅力ではないだろうか(詳しくは、
<Gファンタジーの異色の方向性>参照)。
初めから、作画が非常に綺麗で、世界観がよく出ていると感心していた。背景も、手抜きなく描かれているのが素晴らしい。巻が進んでいっても、その良さは相変わらずなのが魅力。結構シリアスな展開の中、所々にデフォルメされた絵によるギャグも入っていて、バランスを取っている。特に、シリアス展開が増えている最近は、各話扉絵の次のページやカバー下のおまけが、本編とは違った方向へ暴走している。単行本自体おまけが充実しているにもかかわらず、毎回40ページ前後と非常に速いペースで連載が進んでいるゆえに、ほぼ4ヶ月に1回という刊行ペースが維持されているのは驚き。2006年に第1巻が発売されて以来、ついに2桁台突入となった。今後も注目していきたい作品。
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