S線上のテナ 岬下部せすな 芳文社 全9巻
調律師本部の革命問題が一段落したと思いきや、デュオンがオスティナを連れ出す騒動が勃発。今まであまり語られることのなかった、デュオンの過去が明らかになる。さらに、事件解決後、事態は急変し、世界が危機を迎えることに。調律師達と恭介は、世界を破滅から救うことができるのか。命の譜面と調律師達の物語、ついに完結。
世界の調和を維持するのが調律師の役目とはいえ、まさか世界の破滅と向き合う展開になろうとは思いもしなかった。しかし、恭介が、自分にとって音楽とは楽しめなければ意味がないという信念を貫いて、世界の崩壊に立ち向かうラストはなかなか爽やかだったように思う。テナとアルンの心を動かしてきた、音を楽しむことの尊さ、飾らない日常を過ごす幸せを最後まで見失わなかった恭介にエールを送りたい。
強大な力を持つゆえに囚われの身となっていたオスティナも、無事力から解放され、自己犠牲という手段を講じることなく、自由の身となった。テナ・アルン・ソプラ・メゾも、それぞれが自立の道を歩むことになった。
カバーを開けると、「ネタバレ注意」の注意書きとともに、3年後の描写がある。ややしんみりした感じの結末とは対照的に、今までと同じようなゆるい日常の1コマが、そこにはある。これは、変わらない日常のために戦い抜いた恭介へのご褒美なのかもしれない。テナとアルンの微笑ましい恋愛バトルに、ピアノ教室を訪れる生徒達。恭介だけ、おっさん化への運命を辿っている部分が笑える。
命の調律師達が、歪んだものを正すという使命を追いながらも、大切な人と出会うことで、自らも調律されていく姿は、とても温かい気持ちになる。人と人とが出会って、関わり合うことで起こる化学変化って素晴らしい。そんな読後感でページを閉じた。
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『S線上のテナ(1)(2)(3)』『S線上のテナ(4)(5)(6)』PR