銀塩少年 後藤隼平 小学館 全4巻
互いのことを想うがゆえに、離れていく2人。ミライは、幸田と付き合うという道を選択し、マタタキは写真賞入賞後、ミライへの想いを伝え、スペインへ渡る。しかし、未来をうつす写真について知ったミライは、マタタキを追ってスペインへ。そして、写真について何かを知る幸田が取った行動とは。未来写真をめぐる物語が、ついに完結する。
1人の人を思い続けるという純粋な心を持った一面と、写真にかける情熱の2つを持った、ちょっと弱気な主人公を呈したジュブナイルの決定版。最後の最後まで、このスタイルは崩さなかったように思う。それこそ、「必ず最後に愛は勝つ~♪」なんて歌がバックに流れそうな、純情な物語だった。
高校生のマタタキにとっての、年上で強力な恋敵になる幸田は、終盤でかなり悪者扱いされてしまっていた。主人公のマタタキが持つ、純粋に人を想う心を対比によって際立たせるには、その展開もありかとは思う。しかし、それでは幸田の気持ちは純粋ではなかったのかというと、そんなことはないはずだ。幸田もまた、ミライのことを好いていた。また、幸田から見たマタタキという存在は、きっと強力なライバルだったのであろう。だからこそ、ミライの気持ちを利用して、自分に有利な選択を迫ってしまった。この辺りの幸田の心情も描くと、物語に深みが増したようにも思うが、主題はぼやけてしまう。本作は、主人公に寄り添う純情路線を選択した。
写真は、現実の一瞬を切り取って表現することに優れている。それと同時に、写真には限界がある。写真はレンズを通した光の情報をありのままに表現するだけである。人間の認知はそれとは異なる。人間は目から入った情報を取捨選択し、脚色も行う。いわば、人間は見たいものを見るとも言えるのだ。もしも、ありのままを提示するに過ぎないはずの写真に、人間の強い思いが反映されることがあるとしたら、それはどのようにして可能になるのか。本作を読んでいると、そんなワクワクするような問いに思いを馳せることができる。
物語のラストで、「うつりゆく一瞬には永遠の輝きがひそんでいる」という言葉が出てくるように、時に切り取られた一瞬が、かえって動画では表現しきれない永遠を表現することがある。本作には、瞬間の煌めきを表現する写真の魅力が存分に詰まっている。
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