クジラの子らは砂上に歌う 梅田阿比 秋田書店 既刊1巻
砂がすべてを覆い尽くす世界で、砂の海を漂う巨大な漂泊船“泥くじら”には、500人もの人々が暮らしていた。外界とは一切交流がなく、外の世界に人間が存在するのかさえ知らない人々の多くは、“サイミア”という超能力を操る短命の種族であった。そして、船の中の政治は、超能力の使えない分長命である人間が担っていた。ある日、泥くじらの前に謎の漂泊船が現れる。少年チャクロは、好奇心に駆られ、漂泊船の中に入り、1人の少女と出会う。洋服の刺繍にあった文字から、その少女はリコスと呼ばれ、泥くじらに連れて帰られる。外の世界に人間がいることに驚く泥くじらの民であったが、リコスとの出会いが悲劇の始まりであった。
砂の海を舞台にした、独自の世界観を持ったファンジー作品。序盤は温かい雰囲気の日常が描かれているが、平穏な日常は長くは続かなかった。ピエロの仮面を被った人々が次々と泥くじらに上陸し、人々を殺していくのだった。まだ多くはわからないが、泥くじらの人々は何らかの罪を負って生きているようである。外の世界からは「鯨の罪人」と呼ばれ、暦は砂刑暦というものにしたがっている。
リコスは自分の島で何をしたのか、そして、漂泊船に棲む謎の怪物ヌースの正体など、謎が多いが、とにかく世界観にぐいぐいと引き込まれていく作品である。泥くじらをはじめ、背景までがしっかりと描きこまれている。そして、乾燥した砂漠の世界に相応しい、淡い雰囲気のある人物の作画。掲載誌のミステリーボニータではファンを確実に増やしている注目作だ。
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