リューシカ・リューシカ 安倍吉俊 スクウェア・エニックス 既刊1巻
子どもと大人の境界は、曖昧なものである。大人びた子ども、大人になりきれない大人、子ども心を忘れない大人… それでも、物の認知、世界の捉え方など、やはり両者の厳然とした差を認識せざるを得ない部分もある。だからこそ、子どもの疑問は素朴でいて、大人の視点から考えてしまうと時に哲学的でさえあるのだ。
リューシカは、素朴さと想像力によって、独自の世界を作り上げる。リューシカの体験する世界の1コマ1コマは、大人の発想からは想像もつかない。それと同時に、リューシカの目線から語られる世界は、ちょっとした発想の転換について教えてくれるし、在りし日の自分を思い出させてくれるものでもある。本書は、リューシカが空想によって切り開く世界や、子どもの発想と大人の考えのぶつかり合いが、ある時は面白おかしく、またある時は切なく、描かれる。全編カラーで描かれていて、コマとコマの間も、話ごとに異なった色で塗り分けられている。なお、リューシカの台詞には、漢字が登場しないなど、表現に独特のこだわりが感じられる。
本書には、個人誌収録の初期エピソードも含めると、12の物語がある。個人的に特に好きなのが、「ないているの?」と「ふえたりへったりするもの」。「ないているの?」では、玉葱を切るために着用した眼鏡を洗って干したら、水滴が垂れ、それがまるで眼鏡が自分の代わりに泣いているように見えるというリューシカの空想を描いたもの。ページ数は少ないながらも、逞しい想像力を表現できる作者に脱帽。「ふえたりへったりするもの」では、物を片目で見ても1つ、もう片方の目で見ても1つ、だけど両目で見ても1つなのはなぜかという、大人から見ると哲学的な感のある疑問が投げかけられる。最後に描かれる夕日が美しく、カラーの醍醐味も味わえる。
作者によるあとがきも傑作。そう、子どもはなぜか「うんこ」という言葉に弱いのです。その辺りのこともよくわかっていらっしゃる。
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