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それでも世界は美しい 椎名橙 白泉社 既刊6巻



太陽の王国の若き王女ニケと、王国の少年王リビの物語の第6巻。砂の皇国編がクライマックスを迎える。砂の皇国の王イラーダは、ニケを自らの妻にしようと謀略に出る。王の側近の手を借りて何とか脱出したニケだったが、追っ手は迫る。絶体絶命のピンチに陥ったニケは、逃げずに王に立ち向かうのだった。

第1巻から繰り返し描かれてきたテーマが、本作のタイトルにもなっている、「世界は美しい」というメッセージであった。砂の皇国編では、そのテーマがこれまで以上に美しく、そして壮大に描かれていた。砂に囲まれた厳しい環境の皇国では、数多の人々が尊い命を落としていった。王のイラーダは、自然の猛威に晒される度に自らの無力さを実感するのだった。しかし、皆の願いを受けたニケの歌によって雨が降り、その雨によって王はこの世界の美しさを改めて実感し、また、この世界に生きていてよいのだという許しを得たような気持ちになる。これまで1人で抱え込んできた重荷を降ろせるわけではないが、イラーダは、ニケが降らせた雨により、乾燥した心までも潤わせるのだった。これまでも何度となく人々の心を救ってきたニケの雨であったが、砂の皇国編のラストは屈指の名場面となった。

今回は、巻末のおまけ漫画「概ね世界は美しい」も収録されていた。砂の皇国の王イラーダのそっくりさんが電気屋となって登場し、ニケに求愛するというエピソード。ここでもライバルとなるリビとイラーダの対立が面白い。

本編は、湖の王国編に突入する。かつて登場したルナの結婚騒動に巻き込まれ、また新たな騒動が起こる。また、本作は4月からアニメ化が決定したそうだ。これにより、ますます多くの人が本作のことを知るようになると思うと嬉しい。


●過去の記事●
『それでも世界は美しい(1)』
『それでも世界は美しい(2)』
『それでも世界は美しい(3)』
『それでも世界は美しい(4)』
『それでも世界は美しい(5)』
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それでも世界は美しい 椎名橙 白泉社 既刊5巻



太陽の王国の王女、ニケと、王国の少年王、リビの物語は第5巻を迎えた。砂の皇国の王、イラーダとともに太陽の王国を発ち、砂の皇国へと向かったニケは、少雨に困る人々の姿を間近で目撃し、せめて何かの役に立てればと、アメフラシの歌で人々の心を潤すのだった。自分の能力を渇望する砂の皇国に滞在する方が人々に貢献できるのではないかと、ニケの心は揺れる。それは王のイラーダも同じだった。そして、いつの間にかイラーダは国民のためという大義名分を超えて、ニケに一緒にいて欲しいと思うようになる。表紙を飾る2人の心の揺れが描かれる。

初めてニケが王女としての責任や公務を意識し始めたのが、砂の皇国編。太陽の王国以外の国に関して無知であることを自覚したニケは、他国の役に立ちたいと願うのだったが、砂の皇国での経験は、彼女の心を大きく揺さぶるものだった。王のイラーダの、国民と距離が近いところや、王族として飾り立てないところは、ニケの価値観ととてもよく合っているだろうし、乾燥に困る土地で、アメフラシの能力は奇跡としか言いようのない、皆が求める力であるがゆえに、ニケは砂の皇国にいるべきかと悩む。おそらく、イラーダは人間的に優れた人物であるため、もしもリビとの出会いがなければ、ニケはイラーダの許に嫁いでいったことだろう。

しかし、ニケにとってリビの存在は大きかった。必要・必要でないという価値観を超え、ただ一緒にいたいと思えるほど、2人の愛は熟していた。太陽の王国に帰るという苦渋の決断をしたニケに待ち構えているのは、砂の皇国からの執拗な追跡だった。そして、かつて欲しいもののためには略奪も辞さない民族と噂された砂の皇国の王の血筋が影響したのか、イラーダにも異変が起こる。まだまだ続く砂の皇国編。どう決着が着くのか楽しみだ。

今回は、巻末のおまけ漫画「概ね世界は美しい」は収録されず。作者が多忙だったのだろうか、隙間の書き下ろしも少なかった。次回では是非と期待を込めながらも、無理はして欲しくないというジレンマを感じつつ、冬に発売予定の6巻を待つ。

●過去の記事●
『それでも世界は美しい(1)』
『それでも世界は美しい(2)』
『それでも世界は美しい(3)』
『それでも世界は美しい(4)』
それでも世界は美しい 椎名橙 白泉社 既刊4巻



太陽の王国に嫁いだニケと、王国の少年王、リビが紡ぐ物語は、ついに第4巻に達した。ニケの母国、雨の公国の現国王であるニケの祖母の謀略により、2人の仲は引き裂かれそうになる。しかし、お互いがお互いを必要とする想いは強く、その気持ちは雨の公国の家族に伝わった。これにて、雨の公国の試練は幕を下ろす。そして、次は世界五大国の中で最も気性が荒く、関係を維持するのが難しいとされる砂の皇国との物語が始まる。

試練を与えられるたびに互いへの愛を深めていく2人。ニケが祖母の気持ちを理解しつつも、リビと過ごす人生以外考えられないと決意し、処罰でも何でも受け入れようと覚悟する場面は、雨の公国編屈指の名場面。ニケは、以前感じた、今までにない感情が、すなわちリビへの愛情であると気付き、これまで以上にリビへの愛おしさを実感する。リビの言葉、「お前のときめきなんか俺の周回遅れだ」が胸に響く。そんなニケの気持ちが本物であると理解した祖母が、国を去るニケを、心からの温かい想いを込めた雨降らしの歌で見送る終幕が印象的だった。

隙間の「だれとく裏設定」や、巻末のおまけ漫画「概ね世界は美しい」など、サービスが充実しているのが、本作の売り。これらの企画が好評であるため、今後も続けていくそうだ。特に巻末の4コマが非常に良い味を出していて、個人的にはとても好きだ。

●過去の記事●
『それでも世界は美しい(1)』
『それでも世界は美しい(2)』
『それでも世界は美しい(3)』
それでも世界は美しい 椎名橙 白泉社 既刊3巻



太陽の王国に嫁いだニケと、王国の少年王、リビが過ごす日々を描いた物語の第3巻。宰相バルドの登場により、2人の仲に亀裂が走るかと思われたが、そんなことで2人の愛が壊れることはなかった。リビとバルドの関係も修復し、再び平穏な日々が訪れようとしていたとき、今度はニケの母国、雨の公国に異変が。雨の公国に駆けつけたニケと、ニケの後を追って到着したリビには、またしても難題が待ち構えていた。

初めは互いに恋愛感情など抱くことのなかった2人だが、互いを知っていくにつれて徐々に愛を深めていく2人だった。3巻でもそれは変わらず。ニケの異変にすぐに気付くリビ。「お前以外のものなんか 俺にはロクに見えてないんだから」の台詞は圧巻。ニケがリビの心遣いに触れ、2人の唇が重なり合ったとき、ニケは今までにない感情を覚える。その湧き上がる想いが何なのか、彼女はまだ掴めずにいる。

一方、雨の公国で、2人は再び仲を引き裂こうとする勢力と対峙することになる。しかも、すべてはニケの祖母である現国王の謀略によるものであった。試練に次ぐ試練の2人だが、今回はどのように乗り越えるのだろうか。雨の公国編は、次巻に続く。


●過去の記事●
『それでも世界は美しい(1)』
『それでも世界は美しい(2)』
それでも世界は美しい 椎名橙 白泉社 既刊2巻



突如太陽の王国に嫁ぐことになったニケと、王国の王、リビが過ごす、ちょっと心が温かくなる日々を描いた物語の第2巻。婚約の大典を行おうとした2人に、神官庁から課題が与えられる。

ニケに、この世界も捨てたものではないと教えられ、徐々に心を開いていくリビ、そして、初めは生意気な子どもくらいにしか思っていなかったリビに惹かれていくニケが描かれるのが1巻だった。2巻では、愛を育みつつある2人に、神官庁から試練が与えられる。そもそも、合理的ながら圧政を敷くリビの手法に不満を抱き、身分の低いニケが王女になることにも反対していた勢力は、何としても2人の結婚を破談させたかった。しかし、そんな障害も、今の2人が協力すれば、乗り越えられるもの。婚約の承認を得ようとして試練に向かう過程で、2人はますますお互いへの想いを深めていくのだった。

ところが、物語は穏便には進まない。宰相バルドの登場により、2人の仲に再び亀裂が走ることに。今こそ、互いを信頼し、愛せるかが試されている。新たな試練に直面する2人を応援したい。

相変わらず庶民感覚を忘れないニケの振る舞いに和まされる。また、リビがたまに見せる王女を思いやる行動は、かっこ良すぎる。ちなみに、巻末のおまけ漫画、「概ね、世界は美しい」は、遊び感満載で、楽しめる内容。


●過去の記事●
『それでも世界は美しい(1)』
それでも世界は美しい 椎名橙 白泉社 既刊1巻



雨を降らせる能力を持つ「雨の公国」の第四公女・ニケは、その能力を買われ、世界を征服した「晴れの大国」の太陽王・リヴィウス一世に嫁ぐことになった。しかし、相手はまだ子どもである上に、亭主関白な性格。およそ貴族らしくない自由奔放な王女と優秀ながらも孤独感を抱える王の紡ぐ物語。

雨を降らせる能力を持ったニケは、心から世界が美しいと感じられなければ、地上に雫を落とすことはできない。しかし、リヴィウスは世界を手にしていながらも、世界の美しさを実感できずにいた。ところが、自分の性格とは真逆のニケと関わっていくうちに、世界を統べる王が「それでも世界は美しい」と思えた時、地上に雨が降り注ぐ。雨が地面に浸み込むように、優しい雨は渇いた王の心にも染み渡るのだった。

心情の変化は、リヴィウスだけに訪れたのではない。初めはリヴィウスの態度に反発するニケだったが、徐々に世界を制覇した王が持つ孤独感や優しさに触れるにつれ、リヴィウスへの愛情を深めていくのだった。

生命が育つには、日光と水の両方が必要である。砂漠に暮らす人は雨を渇望し、洪水に苦しむ人は太陽の光を求めてやまないであろう。ニケとリヴィウスは、本来互いに惹かれ合う存在だったのかもしれない。2人の今後を見守りたくなる。
自殺島 森恒二 白泉社 既刊3巻



自殺の対応に追われる日本が、自殺未遂者を送り込むことに決めた島、通称「自殺島」において繰り広げられる極限のサバイバル・ドラマの第2弾。主人公セイは、弓矢を作り、鹿を捕らえようと考え、単独で森の奥へと歩みを進める。

第1巻が、自殺島という特殊な社会での人間関係を取り上げ、渦巻くエゴ、誰かと繋がることで生きる気力を得られる人間の姿を描写したのに対して、第2巻は主人公セイ個人に焦点を絞る。高校時代に淡い好意を抱いた先輩とのエピソードも描かれる。

山場は、やはり、セイが獲物を仕留めた場面。自分が生きるとはどういうことか、自分が生きるために他者の命を奪うとはどんな意味を持つのか。微かながらも「生きよう」という気持ちを持った仲間を失った悲しみも相俟って、生の意味について考えざるを得ない局面に晒され、セイは感極まる。日常の生活からは想像もつかない過酷な状況を生きる者の心の声は、私達に多くのことを語りかける。

作者の手によるサバイバル生活ガイドが随所に登場。自然と共に生きる術も学べる。

今後は、再び自殺島で暮らす人々に焦点が当てられる。自殺島に与えられた意味とは何なのか。物語の核心に迫ることになりそうだ。


○過去の記事○
『自殺島(1)』
自殺島 森恒二 白泉社 既刊1巻




もし自殺者が増え、日本政府が彼らを抱えきれなくなったら…
自殺常習犯を日本国から追放し、義務を課さない代わりに権利も与えないという政策を、政府は採用した。好きなように暮らしてくれと言わんばかりに、孤島に送られる彼ら。その島の通称名は、「自殺島」。
ルールも義務もない社会では、何もかもが自由である。当然、生きることも死ぬことも。
同じ船で送られてきた一団は、その集団で生活することにする。しかし、生活は思うほど楽ではない。水を探し、狩猟採集生活を行い、寝床を確保する。今日明日の生活を精いっぱい生きていく必要がある。その中には脱落者も出てくる。希望の持てない人々は、静かに命を絶っていく。また、残った者は死者を埋葬しながら日々を生きる。
2009年9月6日朝日新聞書評のコミックガイドでも取り上げられた作品。

何もかも―死ぬことも生きることも―が自由になったら、どうなるのだろうか。作者は、主人公セイに対し、生きるという選択肢を与えた。主人公は、常に死と隣り合わせの中で、逆に生への希望を得ていく。
島では、仲間割れや強奪も起こる。無法地帯に生きる極限状態に置かれた人々は、人間のエゴや弱さも露呈させる。その中で、改めて問いかけられる、生きるということの意義とは。
この漫画で展開させるのは、様々なものを訴えかけてくる思考実験である。

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