ちいさいひと 青葉児童相談所物語 夾竹桃ジン シナリオ/水野光博・取材、企画協力/小宮純一 小学館 第1巻
駆け出し児童福祉司の相川健太とその同僚が児童虐待の現場に立ち向かい、奮闘する物語。少年サンデーでのシリーズ連載開始以来、新聞でも取り上げられるなど、大きな反響を呼んだ作品が単行本化した。
約1年前に連載を開始し、自分自身も気にしていた作品。今こうして単行本化に至ることができ、ほっとしている。第1巻に収録されているのは、育児放棄を扱ったエピソード①すべてと、身体的虐待を扱ったエピソード②の第1話。
虐待の現場が壮絶であるゆえに、事実を基にした物語を載せるようにしている。そして、各話の間には児童虐待に関する基礎知識を紹介する文章も設けられていて、作品を読んだ人が真剣に虐待について考えるきっかけを与えてくれる。少年誌では異例の連載であるが、いずれ親になる少年少女に読んで欲しいという願いを込めて、あえて少年サンデーでの連載に踏み切ったという。(詳しくは、
朝日新聞2010年10月27日付の記事参照)
漫画という媒体は時に恐ろしい。文章で伝えるよりも物事を鮮明に伝えることができ、映像で伝えるよりも生々しい描写をすることができる。ゆえに、漫画だからこそ伝えられる虐待の現状があるのだ。育児放棄の末に、やせ細った子どもの姿、ごみが散乱したアパートの一室、親からの暴力を受けた子どもの姿、主人公の頭にフラッシュバックする、幼少期に暴力を受けた時の場面。これらが克明に描写されているので、読者は虐待の現場をまざまざと見せつけられることになる。本作は、漫画ならではの特徴を存分に発揮し、児童虐待の現状を訴え続ける。
エピソード①には、とりあえずのハッピーエンディングが用意されているが、エピソード①で気になるのは、父親の存在感がないことだ。シングルマザーはなぜ虐待に至ったのかの鍵を握るのは、彼女の夫であるはずだ。しかし、父親の姿が取り上げられることなく、母親の育児放棄だけがフォーカスされているのは、やや問題を一面化しているように思えてしまう。ラストには、母親と子どもが明るい未来へ向かっての第一歩を踏み出しているような明るい場面が用意されているが、これも母親さえ変わればという印象を与えかねない。もちろん、これ以上問題に踏み込むと複雑になってしまうという考え方もあろうが、虐待問題の原因を単純化しすぎないということも大切ではないだろうか。
少年誌を通して児童虐待の現状を描く本作の存在は、非常に貴重である。第2巻以降にも期待する。
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