さよなら絶望先生 久米田康治 講談社 既刊19巻
前回に続き、異色教師もの第二弾。
糸色望(いとしき のぞむ)は、高校の教師。名前を横書きにすると「絶望」に見えることから、「絶望先生」と呼ばれている。その名の通り、世の中をネガティブに見ることが特徴。そして、彼が担任を務める2年へ組には、個性豊かな生徒が多く集う。そんな生徒(大半は女生徒)とともに、望は人間の性や世の中のおかしなところに、突っ込みを入れ、絶望する。形式は1話完結が基本。
このマンガがすごい! SIDE-Bで巻頭特集された。
少年漫画とは思えないような、世の中に対する鋭い突っ込みと、ネガティブなネタが売りの漫画。1巻は登場人物紹介、3巻くらいまでは様子見にすぎない(もちろん、それでも十分におもしろいが)。連載が続くにつれて、突っ込みの激しさが増し、過激なネタが増えていく。ギリギリのネタが楽しめるのが、長期連載の恩恵であろう。
本作の第1の魅力は、切り口の鋭さである。扱う対象は本当に幅広く、日常の思わず頷いてしまうようなよくある出来事から、芸能、オタク、政治や社会の核心に迫るような内容にまで及ぶ。絶望先生は、森羅万象に対して、時には飛躍の大きい解釈を施し、絶望し続ける。しかし、本作は決して社会に対して、「こうあるべきだ」とか、「こうでなければならない」といった主張はしない。社会の矛盾を見つけてはネタとして笑いの対象にするけれども、いやに説教くさい語りにはならず、本当の意味でのネガティブな方向には向かわない。ちなみに作者は、社会派作品と呼ばれるのは少年漫画として厳しいと登場人物を通して言っているが、社会派要素の強い作品なのは間違いない。
本作の第2の魅力は、非常に細かく描きこまれている背景である。話の本筋だけでなく、さりげないところにもギャグやパロディが登場する。一度読んだだけでは気づかないことも多く、後で読み返して発見することもしょっちゅうだ。回を重ねるごとに隠れキャラは増え続けている。例えば、麻生前首相など、ネタに登場したのは数回であるにもかかわらず、毎回どこかのコマに登場している。全裸事件を起こしたSMAP草彅剛も、途中から隠れキャラの仲間入りをした。
作風上、話の進め方がマンネリ化してくるのは、もはや避けられないことであろう。しかし、本作はところどころにスパイスの効いた話を取り入れることによって、不思議とマンネリ化を感じさせないようになっている。例えば、校庭にミサイルが落ちるという話(連載時は、北朝鮮のことで騒がれていた頃である)など。
★最新19巻について
11月17日に最新刊が発売したのを受けて、19巻について簡単にレヴュー。
19巻は、最近の流れと異なり、初期の頃のように、登場人物がドタバタを起こしていく形式の話が多かった。どちらかというと、社会派っぽい話よりも、純粋なギャグの方が多かった印象である。
しかし、圧巻だったのは、何とかして無駄な仕事を増やそうとする公務員の話。これだけ事業仕分けが話題になっている中、あまりにタイムリーでびっくりしてしまった。通常、本作は雑誌掲載時と単行本発売とにズレがあるため、ネタの新鮮さが薄れやすい。しかし、今回は偶然も重なり、こんなことになった。もちろん、タイムリーでなくてもおもしろい内容だったが。
さよなら絶望先生関連のHP
本作に関連したHPの紹介。熱心なファンが多いことが伝わります。
●
久米田康治ワールド Wikiサイト元ネタ紹介サイト。ネタの幅が非常に広いのが本作の特徴。そもそも、各話のタイトルは文学作品や映画作品のパロディになっている。タイトルを始め、各話の元ネタをページ・コマ単位で詳細に説明している。
●
もう、いーかげんなおはなし『神のみぞ知るセカイ』でも紹介したサイト。本作のファッションチェックをしている。
PR