高橋さんが聞いている。 北欧ゆう スクウェア・エニックス 既刊1巻
現役女子高生アイドルである、高橋エナは、日々アイドルとして成長すべく奮闘しているが、悩む時や辛い時はある。そんな時は独り静かにヘッドホンを着用する。周囲の人間は、エナがどんな時にも音楽を聴いて自分の仕事の糧にしているのだと思っているが、実はエナは音楽を聴いてなどいない。ヘッドホンは、人には言えない趣味のカモフラージュに過ぎない。その趣味とは、クラスの委員長、奈良君と地味系男子の御影君の会話を盗み聞きすることである。誰にも言えない趣味に没頭する高橋さんの日々を描いたギャグストーリー。
面白いことを考えたものである。電車の中など、ついつい他人の話を盗み聞きして、思わず笑いそうになった経験をしたことがある人もいるのではないだろうか。それを日常茶飯事に行っているのが、本作のヒロイン、高橋エナである。しかも、盗み聞きの相手は、クラスの人気者である委員長の奈良君と、どちらかと言うと地味で友人の少なそうな御影君である。この2人、級友からは全く正反対の扱いを受けているにもかかわらず、とても話が合う。いや、むしろ合いすぎて、双方がボケに突っ走る有様である。共にボケる2人に対して適格なツッコミを素早く行うのが、その場にいるべきではない高橋さんなのだ。2人のぶっとんだやり取りと、間髪入れない高橋さんのツッコミが、本作最大の笑いどころだ。
しかし、本作はこれだけがすべてではない。2人の会話を盗み聞きする過程で、アイドルの卵である高橋さんがアイドルとして大切なものを結果的に自然と身に付けていくという成長物語でもあるのだ。盗み聞きのために彫刻の陰に無理な姿勢で隠れたことをきっかけに、ヨガのレッスンにやる気を出すといった、若干馬鹿馬鹿しいものが多い。また、規定路線ではないオリジナルのアイドルを目指すというプロダクションの方針に戸惑いを見せた高橋さんを励ましたのは、御影君の言葉がもとである。人間はそもそも生まれた時から地球の公転と自転というレールの上に乗っかっているのだから、これ以上レールに乗る必要はないという発想は、斜め上からの発想で爆笑必至である。ただのどうしようもないやり取りが知らぬ間にアイドルを勇気付けているなど、会話の本人達は知るよしもない。
2巻は2月に発売予定と、刊行ペースが速い。今度はどんなことになるのか楽しみである。
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