幻影少年 万乗大智 小学館 既刊1巻
秋月サトワは、人の脳波と同調することで、人の心の中に入る能力を持つ。行きつけの喫茶店を営む少女、小川水音の命を救ったことがきっかけで、水音にその能力を買われる。カフェの2階にひっそりと事務所を設置し、そこに現れた依頼人の願いを叶え、人を救うことに。サトワは依頼人の関係者の心の中にダイブし、問題を解決していく。
精神科医が人の夢の中に入っていくという近未来を描いた、筒井康隆の小説『パプリカ』の少年版とも思える内容。どのようにして依頼人の心に平静が訪れるのか、そこに至るまでのミステリー的な要素が魅力的な作品。それほど複雑でないにしても、毎回謎解きのような展開で物語が進むことが多い。意識不明の状態に陥ってしまった者、頑なに口を閉ざした者など、決して心の内を語ることのない人間の内奥には、それぞれ熱い思いが潜んでいる。それをサトワが解きほぐしていくことで、依頼人の心に一筋の光が射す。
絵は普通といったところだろうか。しかし、全体として謎めいた雰囲気が醸し出されていて、独特の世界観がある。サトワは常に冷静で、金銭など世俗的なものへの関心が薄い人間として描かれている。作者の巻末コメントによると、今後はサトワの人間的な面がもっと描かれていくらしい。今後も期待できる。
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