幻影少年 万乗大智 小学館 既刊3巻
秋月サトワは、人の脳波と同調することで、人の心の中に入る能力を持つ。行きつけの喫茶店を営む少女、小川水音とともに、カフェの2階にひっそりと事務所を設置し、依頼人の願いを叶える。
現在は、一見穏やかで正義感に燃える人物であるサトワの過去が徐々に明らかになっていく。怪物の幻影を映し出すことのできる能力を持つゆえの苦悩、人の心に入り壮絶なものを目の当たりにした経験。平静の裏に悲しみや苦しみを抱えながら、サトワは人を助けるため、ダイブを続ける。
人間の心は摩訶不思議で、複雑なもの。ダイブして奥底まで覗けば、単純に「良い人」「悪い人」で括ることのできない世界が広がる。心の底には、美しいところも醜いところも含めて、1人の人間の生き様が現れる。その生きてきた証から、何を考え、何を学ぶか。ダイブの行き先となる登場人物達のエピソードが訴えかける。
少年漫画の中では、比較的ハードな内容かもしれない。心の闇は不気味な絵で描かれるし、2巻の第3幻「償い」に出てくるプロの取立て屋のような、裏社会の人間を取り上げることも辞さない。さらには、第2巻第4幻「化け物」では、多重人格に苦しむ人間の苦悩まで描かれる。第3巻では、虐待を受けてきた犬に、自分の親の殺害現場に居合わせてしまった少女も登場する。
シリアス展開の合間に入ってくるのが、水音に関わる事件。今のところ、水音関係の事件は全てお色気方向へと進む。1巻に1回は外しを取り入れつつも、基本的には真面目な展開で、人間の根源的な問題と向き合おうとする筆者の姿勢は、評価されて然るべきだと思う。
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