S線上のテナ 岬下部せすな 芳文社 既刊8巻
フランスへと向かった、恭介・テナ・アルン・メゾ・ソプラ。うまく逃げ切ったかと思いきや、調律師の本部によって囚われの身となってしまう。調律師本部の対立構造、恭介の過去など、物語の鍵となる重要な事実が明らかになる。
これまであまりよくわからなかった調律師本部の状況が明らかになったり、そもそも恭介がなぜ特殊な譜面を持った存在なのかがわかったりと、物語の核心に迫る謎が解明されていく。更に、調律師デュオン、ソプラの兄のカンター、メゾの姉のベルリラなど、新キャラも登場。牢に入れられ、絶体絶命のピンチを迎えた恭介達が、一命を取り留めることになる過程は、手に汗握るどんでん返しの展開。
自らの生い立ちの謎を知った恭介は、ショックを受けるも、恭介らしく立ち直る。自らの祖母である胡弓のところへ自分から出向いたり、自らと同じ資質を持って生まれながらも、片や調律師本部に幽閉されているオスティナートのことを心配したりと、本当に思いやりに満ちた人物。過去の回想で登場した、恭介の父キタラ、母コルダ、祖父ロック、祖母胡弓の面々がとても素敵な人達だからこそ、現在の恭介があるのだなと思わず納得。
一方、恭介の力になりたいと願うテナとアルンの恋のバトルは加熱。自分の感情を素直に伝えることが苦手なテナ。調律師の仕事以外では案外天然なアルン。2人とも応援したくなるような可愛らしさがある。2人が、恭介への感情が恋だと気付いてからは、少女漫画のようなセンチメンタルなシーンも登場。特に、テナが恭介へに対する気持ちに気付く場面は、フランスの美しい風景と相俟って、盛り上がるシーン。それでいて、2人が空回りする滑稽なシーンもあり、恋愛要素をやたらと引っ張りすぎず、爽やかにまとめているのがポイント。少女漫画に少々のギャグ漫画がうまく溶け込んでいるところが、本作の巧さ。それは、各話の合間やカバー下のおまけ漫画にも表れている。
解決を見せたように思えた、調律師内部の対立は、まだまだ完全に調停されたわけではなかった。密かに動き出す、反革命派の動きは、今後の世界にどのような影響をもたらすのか。何かを知っているかのようなデュオンにも注目。
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