となりの柏木さん 霜月絹鯊 芳文社 既刊1巻
オタクな高校生、桜庭雄斗は、クラスで隣の席に座る柏木琴子に対して、ほのかな恋心を抱いている。しかし、噂によれば、彼女は大のオタク嫌いだそう。雄斗は、3次元の世界に若干の関心を持ちつつも、SNSで見つけた絵師、sayaneのイラストに夢中になる日々を送る。ところが、アルバイト先のアニメ・漫画専門店で憧れの柏木さんを目撃してしまい… オタクであることを隠さない少年と、オタクであることをひた隠しにする少女による、不器用ながらも微笑ましいラブコメ。
雄斗が、人生で唯一関心を持った3次元の女性が、柏木さんだ。一方、柏木さんが初めて出会った、本気で自分の趣味について語れる相手が、雄斗だった。2人は、自分達の趣味の領域について話すときは、驚くほど饒舌で、いつまでも話が続きそうな様子だ。しかし、自分達自身のことについて、伝えたり聞き出そうとしたりすることとなると、突然ぎこちなくなってしまう。
そんな2人に対して読者が感じるもどかしさは、絵師、sayaneのエピソードによって、さらに強くなる。実は、雄斗が好きなsayaneは、柏木さんと同一人物だった。ひょんなことから、雄斗が自分の絵を当初から応援してくれていると知った柏木さんは創作意欲を高めるが、雄斗に自分の正体を話すタイミングを逃し続ける。雄斗の応援もあり、sayaneはどんどん有名になり、ファンを獲得していく一方で、雄斗はsayaneが自分から離れていくような気になって、寂しさを覚える。
実は、2人は、2次元と3次元の両方で確実に絆を深めているのに、どこか2人の想いは行き違い、読者は歯痒い想いをしてしまう。携帯電話が普及して以来、待ち合わせ場所で会えないといったすれ違いは物語になりにくくなった。そんな現代でも、現代なりの新しいすれ違いを描くことは可能なのだなと気付かされた。
タイトルの通り、彼女は、そして彼は、すぐ隣にいる。だけど、うまく伝えられないことはある。心理的な距離をなかなか縮められないこともある。微笑ましく、それでいて切なさも感じられる作品だ。
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