ラズ・メリディアン 結賀さとる 秋田書店 全6巻
さてさて、2010年も師走を迎え、いよいよ終わりが近づいてきた感がある。年が変わる前に是非取り上げておきたいと思ったのが、本作。作者初の少女漫画で、今年の1月に最終巻が発売された。
高校生の間白マナの隣家に引っ越して来たのは、幼いころにさんざんいじめられたという嫌な思い出しかない、竹井千尋だった。今まで、不思議なことなど起こらない、平凡な高校生活を送っていたマナだったが、千尋にもらった指輪で、異世界"アヴァロン"へ召される。マナはそこで、伝説の王、アーサー王に仕えていたという騎士、ランスロットに出会う。ランスロットもまた、自らの世界"キャメロット"から"アヴァロン"へと飛ばされてきたのだった。マナは、ランスロットを元の世界へ送り返すべく、現実の世界と異世界の間を行き来することになる。そして、ランスロットとの秘密が千尋にも知られてしまい、ひょんなことからランスロットも現実の世界で暮らすことになる。
マナ、千尋、ランスロットの三角関係や、それにマナの友人ナガちゃんを加えた四角関係といった、少女漫画の王道と言えるような展開を中心に据えつつも、友人関係、両親との関係、将来の進路などの問題と悩み向き合う、繊細で多感な高校2年生という時期もテーマとして扱った作品。マナのことや自分の出自について悩む千尋、ランスロットに告白し思わず涙するマナ。多感な時期を生きる高校2年生が登場する舞台にマッチした、平凡で、しかしきらめきに満ちた作品舞台が素晴らしい。
霧が深く、歪んだ世界とされる"アヴァロン"には、現実世界のそっくりさんがいる。彼らは、マナ達に何かを訴えかけている。彼らが"アヴァロン"と現実世界の架け橋となり、、時に微笑ましく、時に大事なことを教えてくれるという設定は楽しい。
物語のラストで"アヴァロン"の霧が晴れたのは、それぞれの人物が心の奥底にしまいこんでいた過去を解き放ち、現在の自分に向き合う準備ができたことを象徴する。まだまだ、彼らの物語は続く。
ランスロットがかつて魔の手に操られることで"キャメロット"に起きた事件は重いけれども、全体としては殺伐とした感じはない。同じ作者の『E'S』の雰囲気とは大分異なる。最強の敵とも思えるモルガンとの戦いも、無血での決着を迎えた。最後まで"アヴァロン"は御伽噺のような世界を維持し続けた。ゆったりとしていて、それでいて滔々と流れる時の中で、優しいファンタジーが紡がれている。読むと温かい気持ちになれる作品だ。
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