隠の王 鎌谷悠希 スクウェア・エニックス 全14巻
六条壬晴は、無関心を装う平凡な中学生活を送っていたが、彼の身体には、忍の世界がかつて生んだ最強の秘術である森羅万象が封印されていた。壬晴の知らないところでは、秘術をめぐる争いが起こっており、壬晴を保護する萬天の人々と行動を共にするが、最強の戦力を誇る灰浪衆を前に、苦戦を強いられる。そこで出会った少年、宵風は、禁忌とされていた秘術である気羅の使い手であった。冷酷な心を持った宵風だったが、壬晴は彼と触れ合うことを通して、宵風と自分に共通する心の闇に気付いていく。禁忌の術は身体への負担が大きく、使い続けることは、命を削ることに等しかった。宵風の願いは、自らの存在を歴史から抹消すること。そのために、秘術の森羅万象を使うことを壬晴に要求するのだった。現代に生きる忍の物語。
これまでレビューの機会を逃していた完結作。現代を舞台にした忍者達の物語だが、そこに関わる人間同士が紡ぐ物語でもある。それぞれに魅力的な登場人物が多く、物語が進むにつれて、互いが互いに影響し合って心情に変化が生まれていく過程こそ、本作最大の見所である。
初めは萬天対灰浪衆という構図で描かれていた戦いが大きく変化するのは、壬晴の灰浪衆寝返りがきっかけである。敵同士であった壬晴と宵風は、徐々に互いに持つ寂しさが共感し、行動を共にするようになる。さらには、2人の灰浪衆脱退といった行動も、物語を大きく動かす事件だった。また、2人の周囲を取り巻く人物も、人間味のある非常に魅力的な人物ばかりである。壬晴の教師である帷、灰浪衆の戦術指揮の雪見、萬天に仕える忍者の清水兄妹は、独自の哲学を持って、萬天や灰浪衆といった枠を超えて共闘する仲間となる。それぞれの思いや願いも丁寧に描かれていて、終盤の感動に繋がっている。特に、物語の中盤で宵風が自らの願いを成就して存在を消した後の彼らの団結、ラストで森羅万象の封印に成功し、皆に宵風の記憶も戻った後の彼らの笑顔は、読者の心を大きく揺さぶるものであっただろう。
忍の世らしく、裏切りや寝返り、騙し合いといった駆け引きも豊富で、ファンタジー作品の多いGファンタジーの中では突出する魅力だったように思う。
人の洋服や風景くらいにしかトーンを使わない、白と黒を中心に使った独特の作画が特徴で、作品の世界観によく合っていたと思う。最初から最後まで目の離せない展開で、6年間にも及ぶ連載を続けた作者に感謝したい。