彗星★少年団 倉薗紀彦 ぶんか社 全1巻
秋が深まりつつあるこの頃、やや季節はずれの感は否めないが、過ぎ去った夏の思い出に浸るのに向いているかもしれないのが、本作だ。作者は、あの『魔法行商人ロマ』の倉薗紀彦。
主人公の星川るいは、母の療養のため、東京から田舎に越してくることになった小学5年生の女の子。初めは不安で一杯だったるいも、やがては学校の友達とかけがえのない日々を過ごすようになる。
ある日、ひょんなことから出会った近所の高校教師、野間に影響を受け、るいとその友達は、72000年に1度しか地球の軌道付近を通らないという、世紀の彗星を見ようと計画を立てる。るい達は、彗星少年団と呼ばれる。
彗星がモチーフになっているのはもちろんだが、実際には小学生の日常のおかしな光景や、誰もが1度は経験したことのありそうなエピソードが6ページほどの長さで描かれる形式である。舞台を田舎に設定することで、昔懐かしい香りのする思い出の数々が蘇ってくるような感触を覚える。私自身は、「昔は良かった」などと言って現代を否定的に見るノスタルジックな物言いは好きではないが、るいとその仲間が過ごす何でもない日常の1コマ1コマが心に染み渡ってくる。
物語の中の時は確実に過ぎ、中学生になる直前に、るいは東京へ戻ることになる。小学生の物語はそこで終わるが、最後の1話で、彗星少年団のその後を知ることができる。小学校の教師となって、自らが小学校最後の2年間を過ごした地に戻り、また過去の自分と同じような子どもたちと触れ合う主人公。そして、生まれ育った地に残り、それぞれの人生を歩む他のメンバー。彗星を見たときに野間先生が発した「めぐる」という言葉の意味について考えさせられるラストになっている。
ちなみに、作者によるあとがきは結構な分量があり、作者の作品に対する思いが覗える。実は『魔法行商人ロマ』よりも前に始まった作品を、今こうして読めることが嬉しい。